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SOLD OUT
グローバル資本主義に蹂躙されるこの世界に別の光をあて、別の論理をもちこみ、異郷化する運動への呼びかけとして立ち上がった「鉄犬ヘテロトピア文学賞」第3回受賞作。
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複雑でいて、それぞれがふわっとした心許ない距離感で繋がる家族と将来のことを思い悩む青年「シン」の心情を丁寧に描いた石田千さんの小説。
文章の良さという点で選考委員の多くが一目を置き、受賞となりました。
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<選評 / 林立騎>
とても特別な家族とそこに生まれ育った青年の物語であるにもかかわらず、その特殊性が強調されるのではなく、それもまた一つの生活として、淡々と描写されていきます。その空気の中で、読者であるわたしは、ただこの小説がおもしろく、文章を読んでいる時間がすばらしくて、ずっと読んでいたいと思いました。それはゆたかなまわり道のようでした。主人公の青年は、彫刻家を目指しながらも進むべき道を迷い、ためらい、結論が出ず、やはり苦しいまわり道を歩んでいます。しかしそうした日々をつづける中で、まったく因果関係の見えないところから、なにかが突然開けます。その場面に接したとき、わたしは、たしかにそういうこともあるかもしれない、と思いました。そしてこうした読書体験を最良の意味で「教育的」だと感じました。現代社会を生きるわたしたちは、一刻も早く「選択」し、「所属」を明らかにし、「成果」を生むことを絶えず求められています。そのための教育が続いています。悩む時間はあまりに限られ、最短経路を選ぶことが賢い振舞いとされています。しかし苦しくともゆたかなまわり道を歩んでいれば、主体的に選択せず、因果関係も分析できないかたちで、突然なにかが自分の身に起きる、開けてくるということが、誰にでもあるのではないでしょうか。この小説は、すばらしい日本語体験であると同時に、本を読み終えたあともわたしたちの日々の身振りになにかを残し、別の生き方を感じさせるものでした。
その他の選評はこちら
http://www.sunnyboybooks.jp/the-third-irondog-heterotopia-iteraryprize/
133mm×195mm / 202p / ハードカバー